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シリアル・イノベーター 〈本のレビュー〉 イノベーションを起こすのは広い視野と情熱を持った人材である

イノベーションとはどのように生まれるのか―。

イノベーションはスタートアップのものだけではなく、既存の企業からも生まれています。しかし、それはどのように生まれるのか、誰が生んでいるのかということを解き明かしたのが、本書です。

シリアル・イノベーター 「非シリコンバレー型」イノベーションの流儀

シリアル・イノベーター 「非シリコンバレー型」イノベーションの流儀

この本との出会いは、珍しく図書館でした。別の本を探しているときに、ふと気になって手に取ったのです。「非シリコンバレー型」というサブタイトル、シリアルというビジネスでは聞きなれないフレーズとの組み合わせが気になりました。

この本が、「成熟した企業でどうやってイノベーションを起こすのか」という疑問に答えてくれました。

 

再びスタートアップが注目される今日

先日、社内で開催されたスタートアップとの交流イベントに参加してきました。
やはりスピード感のあるスタートアップ企業の方の話は興味深く、我々のような古い体質にある企業の中からみるとキラキラして見えます。

日本でも、スタートアップへの投資が増加しているようで、渋谷が再び盛り上がっているように思えます。 

 ところで、イノベーションによる市場創出は、スタートアップやベンチャー企業のように新しい企業でないとできないことなのでしょうか。

成熟した大企業の中のイノベーター

本書では、スタートアップではなく、成熟した大企業の中でどのようにイノベーションが生まれているのか、ということに光を当てています。そして、古い体質にある企業の中にあって、繰り返しイノベーションを起こしている人物を「シリアル・イノベーター」と定義し、その人物像や動きに注目していきます。

その人物像を紹介した個所を本文より引用します。

本書で取り上げるシリアル・イノベーターは、こうしたアーティストや起業家、社長とはかなり違う立場にいる。先に挙げたキャロル・バーニックやチャック・ハウスがその好例だ。彼らが所属するような成熟した大企業では、イノベーションはサポートされるよりも、阻まれることのほうが多い。しかし、彼らはそんな逆境をものともせず、画期的なイノベーションを実現させている。

ここで、キャロル・バーニックやチャック・ハウスといった名前が挙がっていますが、みなさんご存じでしょうか? 知らないという人が多いのではないでしょうか。

本書では、このような人物・事例を深く掘り下げ、成熟企業でどのようにイノベーションが生まれてきたか、明らかにしていきます。

ある意味スーパーマン的な人物像だが、権力があるわけではない

そのシリアル・イノベーターは、職位的には権力を持たないポジションにいます。つまり、マネージャーやジェネラルマネジメント層ではない、ということです。

そして、その人物の行動特性として、以下のように描かれています。(引用します)

本書が研究対象としたすべての企業で、四つのすべての業務をこなす「イノベーター(Innovator)も発見した。彼らはニーズを把握し、研究開発を牽引し、チャンピオンとなり、遂行段階においては自らプロジェクトを指揮する。

ここで、聞きなれない「チャンピオン」というのは、社内にいるリーダシップを持つ人物で、技術には詳しくないものの、市場機会を捉えて製品化を推進する人物として定義されています。

一方、研究開発部門や個別の知財や技術を起点とした新製品の開発を、本書では技術主導型と呼んでいて、 その限界を示しています。

本書によれば、シリアル・イノベーターは技術にも市場にも精通し、しかも製品を世に送るためにビジネスサイドに踏み込んで力を尽くす人物です。それを、権力を持たないポジションでやろうというのですから、かなり茨の道に見えます。

しかし、そうした人材がいなければ、成熟企業では大きなイノベーションに繋がる製品は生まれないというのです。本書では、こうした話が複数の事例、インタビューを通してあぶりだされていきます。

読み進めるにつれて、どんどん引き込まれていきました。

ところで、この人物像は情熱的な「ミニCEO」のような人、つまり「プロダクトマネージャー」の人物像に見えるのではないでしょうか。

なぜこの本に共感したのか?

この本は買ってから何度も読み返しています。そして、事あるごとに手に取る本のひとつになりました。とても共感する本なのです。

なぜ共感するのかといえば、私自身が似たようなことを経験しているからです。

とても「シリアル」とは言えませんが、研究所で勤務していたとき、まだ市場にない製品を世に送り出すべく力を尽くしたことがありました。そのとき、本書に書かれているような問題にぶち当たり、足踏みしていたのでした。

具体的には書けないのですが、市場の潜在的なニーズを見つけ、顧客現場に赴いて裏取りをし、独自技術を開発するまで約半年。しかし、そこから製品を送り出すまで、なんと3年近くもかかったのでした。

この経験の中で、大きな分岐点となったのは、私が研究員という上品な仮面を脱いで、元の泥臭いビジネスマンの顔に戻って強引に動き出したときだったと考えています。

当時、業務SEから研究員にキャリアチェンジし、新しいプロジェクトに入りながらも、もどかしさを感じていました。それは、具体的に顧客から欲しいという声もあるのにビジネスサイドが動かないこと、ビジネスモデルが浮かんでいるのにロール外であったこと、研究員としての評価軸を気にする自分自身―どれもがちぐはぐに見えていたのでした。

あるとき、自分の中で何かが吹っ切れました。「最後までやる」と。

そこからは、研究所内の評価も、ビジネス部門とのコンフリクトも気にならなくなりました。顔つきはとても研究員に見えなかったことでしょう。顧客現場、展示会でのプロモーション、投資部門や開発チームとの会議など、ありとあらゆることに顔をだしました。プロダクトマネージャーが不在だったので、自分で企画書とガントチャートを書きました。そうしたことで、何とか製品化と市場創出に至ったのでした。

私がやったことは、本書で語られるような大成功事例ではありませんが、泥まみれになって動いたあの時の経験と重なるのです。

本書を読んで、まさに当時のことが鮮やかに目の前に浮かび、感傷的な気持ちになりました。
それほど困難で充実していたということでしょう。

プロダクトマネージャーがイノベーションを牽引する

私は、本書を読んで、プロダクトマネージャーこそがまだ見ぬ市場を発見し、製品を作り、世に送り出すイノベーターであると確信しました。

大企業、ベンチャー企業を問わず、プロダクトマネージャーを育成することが、日本の産業を活性化することになるのではないかと考えています。

 

シリアル・イノベーター 「非シリコンバレー型」イノベーションの流儀

シリアル・イノベーター 「非シリコンバレー型」イノベーションの流儀

  • 作者: アビー・グリフィン、レイモンド・L・プライス、ブルース・A・ボジャック,市川文子、田村大[監訳]東方雅美[訳]
  • 出版社/メーカー: プレジデント社
  • 発売日: 2014/03/29
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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