スーツ姿のプロダクトマネージャー

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もし、「新製品の企画を考えて」と言われたら?

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デジタルビジネスやAIというバズワードの元で、様々な業界・企業で新しいビジネスを考えようという動きが起きています。国内企業がビジネス環境の大きな変化に直面していて、突破口を求めているともいえるでしょう。

このようなとき、スタートアップや異業種に追われる企業では、トップダウンで「AIを活用した新規ビジネス企画」や「デジタルビジネス検討委員会」なるものが立ち上がることがあります。また、大々的に組織が立ち上がらなくとも、事業部や製品開発チーム、また情報システム部門内で検討を行うこともあるでしょう。

 

こんなとき、あなたに新製品の企画を考える仕事がやってきたとします。あるいは、いま開発を担当している製品の競争力を高める戦略を考えることになったとします。

さて、どこから手を付けたらよいでしょうか。

 

例えば、次のようなことをやってみるのはどうでしょうか?

  1. 顧客に「困りごとはないですか」と聞いてみる
  2. 市場調査、他社調査を行ってみる
  3. 自社の技術で解決できることを探す
  4. 会社の若手や幹部を集めて会議をする

これらはよく目にするやり方かもしれません。最近は企業内研修で、ビジネスモデルやイノベーションの研修も活発になっています。その研修の中で、顧客課題を持ち寄ってブレストするということもあるでしょう。

 

しかし、極めて個人的な見解ではありますが、上で挙げた方法から始めるのは「新製品企画の成功確率を下げる」ことに繋がるかもしれません。特に、市場創出を伴うような新製品の企画を行う方法としては、あまり効果的でないと思っています。

上から順に見てみましょう。

 

手始めにやるべきでないこと。

 

顧客に「困りごとはないですか」と聞いてみる

ビジネス系ワークショップや研修で、顧客や自社の「困りごと」を持ってくることが宿題となっている場合がありますね。また、受託型のビジネスをやっているSIerでは、顧客こそビジネスの源泉であり、何にしても顧客に尋ねることから始める傾向にあります。

この方法の問題点は、二つあります。

 

まず第一に、一人の顧客から抽出した課題が市場ニーズであるとは言いきれません。これは、新製品企画のみならず、プロダクトマネジメントで製品機能を考えるときにも直面する典型的な問題の一つです。製品やサービスというのは、複数の顧客=ターゲット市場に向けて売るビジネスですから、一人の顧客の意見だけだと本当のところがよくわからないというわけです。サンプリングの問題ですね。そういった意味で、いくつかサンプルが集まればこの問題を解消できます。

しかし、SIビジネスのように、これまで受託型ビジネスにどっぷりと漬かってきた来た方は、このような感覚になかなか到達できません。なぜなら、これまでのビジネスは「目の前の顧客のニーズ満足させること」によって成り立ってきたのですから。したがって、受託型から製品型のビジネスに転換しようとする人・組織であるほど、この罠に陥らないように気を付ける必要があります。*1

 

もう一つの問題点は、より深刻です。そもそも、新製品に繋がるようなタネを、顧客自身が「困りごと」として認識していないことが多いという問題です。イノベーションに繋がるような発見こそ、この傾向があると思います。

例えば、自動車や電球、スマートフォンといったまさに世界を変えるような発明が生まれたときの話を考えてみましょう。イノベーションによって駆逐された製品、つまり馬車、ランプ、ガラケーを使っているユーザや製造業者に「困りごと」や「画期的なニーズ」を聞いたとして、イノベーションに繋がる答えを得ることができたでしょうか。また、労働者としてその仕事に深くかかわっている人は、自分自身の必要性を疑うことは稀でしょう。

ただし、イノベーションのヒントは常に現場にあるということは意識しておくべきだと思います。ここで問題としているのは、質問の仕方と聞く側のスタンスです。

 

市場調査、他社調査を行ってみる

市場(顧客)を起点に製品やビジネスを考えるのは、ビジネスのセオリーとも言えます。いわゆるマーケティングですね。新製品の企画書の前半には、必ず市場調査の結果が書かれ、企画のストーリーを先導する役目を果たします。そして、企画には競合となる他社の状況も重要です。全く競合がいないというのは大きなチャンスと捉えがちですが、逆に大きなリスクを含んでいたり、そもそもニーズがない可能性があるとも言えます。直接的な競合がいない場合であっても、新製品が戦うことになる何らかの「代替品」の存在があるべきでしょう。それこそが、ニーズの片鱗だからです。

その一方で、イノベーションを起こすような新製品というのは、時として市場の境界線を大きく変えてしまうものです。例えば、パーソナルコンピュータの普及に大きく貢献したアップル・コンピュータのApple IIが登場したとき、コンピュータは個人でなく企業内で利用するのが一般的でした。

当時、ITビジネス大手だったIBMもパーソナルコンピュータを発売していましたが、個人向けの市場は軽視していたのです。

 

このように、ある会社で新しいことを試みようとすると、どうしても自社のビジネス、自社の顧客、自社が認識する顧客セグメンテーションで調査を進めてしまいます。こうなると、イノベーションに繋がる企画を行うことは難しいかもしれません。

しかしながら、伝統ある企業がベンチャーのような新興企業と戦うためには、自社のコンピタンスやリソースを活かす必要があります。*2

餅は餅屋であり、自社の過去を無視するわけにもいかないもの事実です。まさにジレンマですね。

 

自社の技術で解決できることを探す

いわゆるプロダクトアウト。自社の強みとなっている技術やノウハウを活用して市場を拡大していくという作戦です。プロダクトアウトの弊害は様々なところで語られています。端的には、顧客がいらないものを作ってしまう可能性があります。マーケティングの権威であるT・トレッド博士の著作に、以下のような一節があります。つまり、過度に製品に着目してしまうことで、ニーズ・顧客を置き去りにしてしまう危険性があるというわけです。

昨年、4分の1インチ・ドリルが100万個売れたが、これは人びとが4分の1インチ・ドリルを欲したからでなく、4分の1インチの穴を欲したからである。

 

ところで、自社の技術を起点に考えることの弊害はこれだけではありません。組織構造に根差した複雑な問題を引き起こす恐れがあるのです。

自社技術を持っている企業というのは、その技術を持っている部署や組織があるということですが、往々にしてそうした部隊は技術開発に専念しています。いわゆる研究開発部門です。このような研究開発部門は、会社が大きくなればなるほど事業とは切り離された組織となり、ビジネスから距離ができていく傾向にあります。*3

つまり、研究開発部門のモチベーションは、自分たちの技術を発展・活用することになります。このような状況下では、市場ニーズや新製品にとってベストでない技術に執着し、ビジネスチャンスを見逃してしまう恐れがあります。

 

ただし、画期的な製品というのは、プロダクトアウトでドライブされる側面があることを認識しておくべきでしょう。その画期的な製品は、まだ市場に存在しないのですから。

 

会社の若手や幹部を集めて会議をする

新ビジネスコンペや事業改革案の募集など、歴史の長い企業はイノベーションのタネを見つけるべく、社内の英知を集めようとします。事業部門の中でも人を集めて合宿をしたり、ブレストを行ったりすることもあるでしょう。ワーキンググループやタスクフォースといった、部門横断的なチームを立ち上げる場合もあるかもしれません。

確かに、ダイバーシティは重要です。社内外の技術とニーズを引き合わせ、画期的な製品を作することは、一人でできるものではありません。新しく芽生え始めた世の中の価値観を先取りするには、若い世代の目も重要です。また、業界をまたがった技術移転には大きな可能性があります。

 

さて、ここで取り上げたやり方の問題はどこにあるでしょうか。

最も大きな問題点は、責任の所在が曖昧になりがちだということです。時限付きであり、公式な権限・リソースがないという状況では、本気で新製品を生み出したいというモチベーションを持ちにくいでしょう。市場を創るほどの製品を生み出すには相当のパワーが必要になります。とても片手間でできることではありません。

イデアを形にして世に送り出すためには、様々な人の助けを借り、顧客にアプローチし、市場を切り開く必要があります。そして、それを引っ張るのは熱狂的なリーダーなのです。アイデアがユニークであればあるほど、つまり、市場にとって革新的であればあるほど、リーダーシップが成功のカギになるでしょう。

哲学者・数学者であるデカルトは著書「方法序説」の中で次のような言葉を残しています。

たくさんの部品を寄せ集めて作り、いろいろな親方の手を通ってきた作品は、多くの場合、一人だけで苦労して仕上げた作品ほどの完成度が見られない。

 

一方、ビジネスにおいても、伝統的な企業の中で何度も革新的な製品を送り出す人物に対する研究において、同じような知見が得られています。*4

もし、こうした会議が自発的なものでなかったとしたどうでしょうか。また、そのメンバーに熱狂的なリーダーがいなかったらどうなるでしょうか。画期的なアイデアの片鱗が語られたとしても、それが製品化されて世に出ることはないでしょう。

 

では新製品の企画はどこから始めればよいのか?

では、新製品の企画を考えるとき、どこから始めたらよいでしょうか。

その答えはこうです。

 

まず、世の中を観察をし、改善の余地がある課題や満たされていないニーズを発見することから始めましょう。どんな画期的な技術であっても、世の中の潜在的なニーズ、目の前にある課題に結びつかなければビジネスになりません。

よく知られた例を挙げてみます。

  • ポストイットは研究開発によって偶然生まれた粘着力の弱い糊によって実現しました。その糊はお蔵入りしていましたが、ビジネス現場でクリップを使わずメモを張り付けるというニーズに出会って製品化され、大ヒットとなりました。
  • THINK WILD」に登場するサラ・ブレイクリーは、訪問販売をしているときに自分が着用していた補正下着に不満を持ちました。そして、自分が使いたいと思う補正下着を構想。大ヒット商品となった「SPANX(スパンクス)」を開発するのです。

 

過去に自分が経験した事例を振り返っても、ビジネスの始まりはこのような現場課題の発見だったと実感しています。私が経験したのは小さなスケールの製品でした。しかし、その業務領域のプロが思いつかない課題と解決方法がフィットし、小さくて新しい市場を創ることができたのです。 

 

世の中には、たぶん我々がまだ認識していない、解決すべき課題やニーズがゴロゴロしているはずです。 

 

では、どうやって現場課題を発見していくのか? 

これは大変に難問です。システムマティックにできるのであれば、もっとイノベーティブな企業で溢れかえっていることでしょう。

 

しかし、この問いは実に興味深く、実務と個人的な研究を通して考え続けています。これについては、別に記事を書こうと思います。

 

*1:これは、ハイタッチとハイコンセプトの違いであるとも言えます。「ハイ・コンセプト『新しいこと』を考え出す人の時代」を参考にしてください。

*2:参考文献:「ストラテジック・イノベーション

*3:これは、研究開発部門に限らずコストセンターの宿命であると言えるかもしれません。

*4:シリアル・イノベーター」という本に研究成果がまとめられています。本ブログでレビュー記事も書いています。