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孫子をビジネスに活かす! 製品企画やプロダクトマネージャーに必要な戦略思考

皆さん、中国古典の「孫子」をご存知でしょうか?

孫子古今東西もっとも有名な兵法書として知られています。東洋発の兵法書ですが、欧米諸国でも研究されてきた本で、普遍的で本質的な知見に溢れています。

孫子では、情報を集めて状況を正しく理解することの重要性から、戦って勝つ方策を練るための考え方まで、多岐にわたる内容がコンパクトに示されています。

まさに戦略論ですが、ビジネスで活用できるヒントが満載です。
経営者がよく読む本でもありますね。

しかし、よく知られた名言「彼を知り己を知れば百戦して殆うからず」だけ聞いて、「確かに大事だよね。知ってるし。」と片付けてしまうのは、とてももったいないと思います。

私も初めに読んだときには、ビジネス書と比べてちょっと読みにくいなぁと思って積読してしまいました。あるとき、ふと思い出して読み返したところ、目から鱗が落ち続けることになり、一気に読破してしまいました。それは、示唆に富んだ内容というだけでなく、自分のビジネスに活かせる内容が詰まっていたからです。

それからは、何度も何度も読み返し、そのたびに付箋やドッグイアが増えています。

新訂 孫子 (岩波文庫)

 

本書は読み方によって、また読み手の状況によってインパクトがある個所が違ってくるでしょう。以下では、製品企画やプロダクトマネージャーなど、「ビジネスを創っている」リーダーの方に参考になる3つの考え方にフォーカスし、ご紹介します。

 

 

1. 戦う前に情報を集め、戦略を立てよ

戦争に限らず、ビジネスでも戦略が重要であることは疑いがありません。

とはいえ、いくら戦略が重要だと叫ばれたとしても、考える時間がなかったり、そもそも組織風土的にやってみることこそが正義!のような場合は、戦略というものが軽視されがちです。

孫子は、まず戦略の重要性について説いています。

戦争とは国の大事である。〔国民の〕死活がきまるところで,〔国家の〕存亡の分かれ道であるから,よくよく熟慮せねばならぬ。それゆえ,五つの事がらではかり考え,〔七つの〕目算で比べあわせて,その時の実情を求めるのである。

引用元:新訂 孫子 (岩波文庫)

兵法書であるにも関わらず、とにかく戦争ありきで考えていないというのが孫子の大きな特徴といえるでしょう。そういった意味で、「戦わずに勝つ」的な発想法だと誤解されることもあるのですが、徹底的な分析を行うことで勝率を上げようとする、現実的な書でもあります。

ここで、「国民の死活がきまる」と切り出しているのは大変に重いことです。人や国家の生死にかかわるのが戦争ですから、安易に動くなと言っているのです。

さて、ビジネスの場合はどうでしょうか。無策でビジネスに失敗したら、損益が悪化するだけでなく、会社という組織が崩れてしまうことになるかもしれません。

また、製品に責任を負う企画担当者やプロダクトマネージャーの決断は、その製品とそれに関連するバリューチェーン全体の成否に影響します。したがって、たとえ一つの製品といえども、製品戦略を考えることは非常に重要です。

戦略に必要な5つの視点

孫子は、戦略を考える上で必要な観点を道、天、地、将、法」というフレームワークで整理しています。

〔五つの事というのは,〕第一は道,第二は天,第三は地,第四は将,第五は法である。〔第一の〕道とは,人民たちを上の人と同心にならせる〔政治のあり方の〕ことである。そこで人民たちは生死をともにして疑わないのである。〔第二の〕天とは,陰陽や気温や時節〔などの自然界のめぐり〕のことである。〔第三の〕地とは,距離や険しさや広さや高低〔などの土地の情況〕のことである。〔第四の〕将とは,才智や誠信や仁慈や勇敢や権威〔といった将軍の人材〕のことである。〔第五の〕法とは,軍隊編成の法規や官職の治め方や主軍の用度〔などの軍制〕のことである。

引用元:新訂 孫子 (岩波文庫)

 ビジネスに置き換えて考えると、以下のようになります。

  • 道: 事業理念、ビジョン、製品で実現する未来
  • 天: 世の中の情勢、マクロ環境(政治、経済、社会、技術など)
  • 地: 戦う場所の状況、ターゲット市場、既存のバリューチェーン、競合分析
  • 将: リーダーと人材
  • 法: 組織の規定や運営

注目すべきことは、社内と社外の双方の視点が盛り込まれていることです。

経営戦略論では、長らく「ポーター vs バーニー」という形で、分析的手法に重きをおくポジショニング派と、経営資源に重きをおく資源派の論争が続いてきました。孫子は、その両方が重要だと言っているのです。これは、ビジネス経験が長い方も納得できる点があるのではないでしょうか。

また、もう一つ注目すべきこととして、外部環境分析にあたる天と地を分けて考えていることです。自社で影響を与えられる範囲とそうでない範囲を分けて考えることは、戦略上きわめて重要なことです。

「戦わずして勝つ」の意味

孫子というと、上で解説した戦略論とともに「戦わずして勝つ」という話も有名ですね。以下、それを述べた個所を引用します。

〔深い理解を得た者は,七つの〕目算で比べあわせてその時の実情を求めるのである。すなわち,君主は〔敵と身方とで〕いずれが人心を得ているか,将軍は〔敵と身方とで〕いずれが有能であるか,自然界のめぐりと土地の情況とはいずれに有利であるか,法令はどちらが厳守されているか,軍隊はどちらが強いか,士卒はどちらがよく訓練されているか,賞罰はどちらが公明に行われているかということで,わたしは,これらのことによって,〔戦わずしてすでに〕勝敗を知るのである。

引用元:新訂 孫子 (岩波文庫)

戦う前に、相手の自国の道、天、地、将、法の優劣を見るということです。孫子は、そのチェックポイントを7つの観点で整理しています。

これは、無駄な戦いを避けつつ、勝率を測る現実的な考え方といえるでしょう。製品企画では、これらのことが市場や競合の分析に盛り込まれるべきだと思います。

また、ここで示された考え方は、逆に、勝率を上げるための観点として捉えることもできるでしょう。

だれと戦うのか?

ところで、ターゲット市場が明確になった後、誰とどうやって戦うかというのは、ビジネスでも重要ですね。これは、マーケティングではポジショニングの問題と言えますが、孫子は次のように述べています。

戦争の原則としては,〔身方の軍勢が〕十倍であれば敵軍を包囲し,五倍であれば敵軍を攻撃し,倍であれば敵軍を分裂させ,ひとしければ努力して戦い,少なければなんとか退却し,力が及ばなければうまく隠れる。〔小勢では大軍に当たりがたいのが常道だからである。〕だから小勢なのに強気ばかりでいるのは,大部隊のとりこになるだけである。

引用元:新訂 孫子 (岩波文庫)

端的には、圧倒的な戦力差を持っているときには正面突破でよいが、そうでなければちゃんと考えよということです。根性論だけでは突破できないのです。また、興味深い点として、リソースが相手の倍であっても真正面からの攻撃はだめだとしていることです。それは、戦いの目的や戦った後のことを考えているからです。

戦争の上手な人は,敵兵を屈服させてもそれと戦闘したのではなく,敵の城を落としてもそれを攻めたのではなく,敵の国を亡ぼしても長期戦によったのではない。必ず全すなわち無傷のままで獲得する方法で天下の勝利を争うのであって,それゆえ軍も疲弊しないで完全な利益が得られるのである。これが謀りごとで攻めることの原則である。

引用元:新訂 孫子 (岩波文庫)

これらを読んでどう思いますか? 「弱気だ」と思うか「巧妙だ」と思うか…。

意識しておく必要があるのは、自分たちが根性を活かした正面突破を目論んだとしても、戦う相手が必ず素直な戦いに応じるとは限らないことです。

あなたが戦っている競合企業、競合製品、新興勢力は、孫子のような考え方を持っている場合もあるでしょう。

2. 情報戦を制せよ

戦略を立てるには、戦況やマクロ環境の情報をいかに集めるかというのが重要になります。

ただし、単に調べものをすることだけではありません。戦う相手も同じように情報を集めているのですから、まさに「情報戦」を勝ち抜く必要があるのです。

戦争とは詭道―正常なやり方に反したしわざ―である。それゆえ,強くとも敵には弱く見せかけ,勇敢でも敵にはおくびょうに見せかけ,近づいても敵には遠く見せかけ,遠方にあっても敵には近く見せかけ,〔敵が〕利を求めているときにはそれを誘い出し,〔敵が〕混乱しているときはそれを奪い取り,〔敵が〕充実しているときはそれに防備し,〔敵が〕強いときはそれを避け,〔敵が〕怒りたけっているときはそれをかき乱し,〔敵が〕謙虚なときはそれを驕りたぶらせ,〔敵が〕安楽であるときはそれを疲労させ,〔敵が〕親しみあっているときはそれを分裂させる。〔こうして〕敵の無備を攻め,敵の不意をつくのである。

引用元:新訂 孫子 (岩波文庫)

ここで引用した一節は、「戦争とは詭道である」とコンパクトな表現で引用されることが多いものです。私はその後の文章を合わせて理解することが重要と考えていますが、実に巧みで狡猾な戦略ではないしょうか。

ビジネスにおける経済戦争

長年法人向けITビジネスに身置いて実感することの一つに、競合企業のみならず、顧客や自社内の関連部門といったプレイヤーが、時には「詭道」で仕掛けてくることが多かったという事実です。

ビジネスは物理的な戦争ではありませんが、資本主義の土俵で戦う経済戦争です。それゆえ、関係の薄い相手が「よい話をもってくる」ときには、必ず相手の利益になる何かが潜んでいると考えるべきでしょう。

このような話を上司や同僚にすると、「あなたは後ろ向きで疑い深すぎる」と批判されることが多いです。しかし、会話の中で「よい話」に違和感を感じたときには、かなりの高確率で後々リスクが浮上するという経験をしています。

ここで私が主張したいのは、ネガティブになれということではなく、「そういうものであるから、相手の背後にある状況を把握した上で、お互いにWin-Winになるポイントを探せ」ということです。現代のビジネスでも、こうしたクールかつホットな考え方が重要になるはずです。

繰り返しになりますが、たとえあなたがこのような考え方を捨てたとしても、戦う相手もピュアであるかどうかはわからないという点は、常に気にしておくべきでしょう。

戦うだけが戦争ではない

孫子は外交戦略について、以下のように述べています。

最上の戦争は敵の陰謀を〔その陰謀のうちに〕破ることであり,その次ぎは敵と連合国との外交関係を破ることであり,その次ぎは敵の軍を討つことであり,最もまずいのは敵の城を攻めることである。城を攻めるという方法は,〔他に手段がなくて〕やむを得ずに行うのである。

引用元:新訂 孫子 (岩波文庫)

ひとつの製品企画の観点では、応用が難しい話ですが、戦う前から勝負が始まっていることと、戦い方にも多様性があることを意識すべきでしょう。また、大きな組織では、むしろ内部リソースの獲得や組織運営のために、内向きな外交戦略が必要になるかもしれません。

ところで、こうした外交戦略も含めて考えていくと、戦争の成否を分けるのは複雑な情報戦略も絡んでいくことになります。ビジネスについても同様で、他社の製品やサービスの戦略や真の実力というのは、ニュースやプレスリリースで得られるような表面的な情報からはわからないことがあるということです。

情報戦によって得られた勝利というのは、第三者から見るとよくわからないことがあります。これは、特に国家間の外交や諜報戦略ではよく出てくる話ですが、孫子は次のように述べています。

勝利を読み取るのに一般の人々にも分かる〔ようなはっきりとしたものについて知る〕ていどでは,最高にすぐれたものではない。〔まだ態勢のはっきりしないうちによみとらねばならぬ。〕戦争をしてうち勝って天下の人々が立派だとほめるのでは,最高にすぐれたものではない。〔無形の勝ちかたをしなければならぬ。〕

引用元:新訂 孫子 (岩波文庫)

ひとつのプロジェクトや製品の単位で物事を眺めていると、気づきにくいことことでしょう。

しかし、ひとつの企画であっても、戦略の5つの事がらで出てきた「天」、すなわちマクロ環境の影響を受けます。したがって、世の中の情勢を見る上で、諜報員的なものの見方を身につけることが、長い目で見た時に重要になるでしょう。

簡単なところでは、日経新聞などの経済系新聞の一面というのは、単に取材の結果というわけではなく、それをリークしたい誰かの手によるものであると考えるのが自然です。

3. 戦いの現場でも戦略的に動け

孫子は徹底した戦略思考が貫かれており、計画だけではなく、戦争の現場でも戦略的な視点を持つことがいかに重要であるかについて、具体的に学ぶことができます。

まず、チームの意識を意図的に統一させる

大きな部隊を動かすための方法として、孫子は以下のように述べています。

古い兵法書には「口で言ったのでは聞こえないから太鼓や鐘の鳴りものを備え,さし示しても見えないから旗や幟を備える。」とある。だからこそ,昼まの戦いには旗や幟をたくさん使い,夜の戦いには太鼓や鐘をたくさん使うのである。

引用元:新訂 孫子 (岩波文庫)

私はあまり歴史に詳しくなかったので、野戦で旗を使うのは敵味方の区別をつけやすくするためのものだと思っていました。ビジネスでいえば、組織運営の方法と考えることができます。また、プロダクトマネージャーの視点では、チームメンバーをいかにして引っ張るかという話になるでしょう。

これは、オペレーションの話に聞こえるかもしれませんが、その方法についてあらかじめ計画しておくという意味で、戦略的な話になります。

戦況を正しくつかみ、柔軟に対応する

以下の一節も、「戦争は軌道である」という考えから導かれる話でしょう。

孫子はいう,およそ戦争の原則としては,高い陸にいる敵を攻めてはならず,丘を背にして攻めてくる敵を迎え撃ってはならず,嶮しい地勢にいる敵には長く対してはならず,偽りの誘いの退却は追いかけてはならず,鋭い気勢の敵兵には攻めかけてはならず,こちらを釣りにくる餌の兵士には食いついてはならず,母国に帰る敵軍はひき止めてはならず,包囲した敵軍には必ず逃げ口をあけておき,進退きわまった敵をあまり追いつめてはならいない。

引用元:新訂 孫子 (岩波文庫)

しかし、戦いの現場は刻一刻と変わっていきます。だからこそ、現場での迅速かつクールな判断が必要になるのですが、戦略的な視点でいえば、そうした行動のとれる人材を育成していくことになると思います。以下の一節のようなことを実現するためには、日ごろの訓練があってのことでしょう。

大軍の大勢の兵士が,敵のどんな出かたにもうまく対応して,決して負けることのないようにさせることができるのは,変化に応じて処置する奇法と定石どおりの正法と〔の使い分けのうまいこと〕がそうさせるのである。

引用元:新訂 孫子 (岩波文庫)

プロダクトマネージャーについても同様で、いったんローンチしたプロダクトについては、時間をかけて市場を制していかなければなりません。そのとき、計画時点の想定とは異なることが必ず起きるはずです。こうしたとき、柔軟性のある対応をとれるかどうかは、リーダーのみならず、デリバリーやサポートを担当しているメンバーも含めて重要な要素となってきます。

リーダーは冷静であれ

チームを運営していると、実に様々なことが起きます。それは、外部環境やサプライヤーの問題ということもありますが、内部の問題に頭を抱えることも多いでしょう。

そうしたことも含め、責任を持ちつついかに冷静な対処ができるかというのが、リーダーの腕の見せ所ですね。どのように人を動かすか、孫子の考えの一部を引用します。

そこで,軍隊には,逃亡するのがあり,ゆるむのがあり,落ちこむのがあり,崩れるのがあり,乱れるのがあり,負けて逃げるのがある。すべてこれら六つのことは,自然の災害ではなくて,将軍たる者の過失によるものである。
そもそも軍の威力がどちらもひとしいときに十倍も多い敵を攻撃させるのは,〔戦うまでもなく〕身方の兵を逃げ散らせることである。

引用元:新訂 孫子 (岩波文庫)

 

おわりに:どうやって孫子を読むか?

ここまで、孫子の中からビジネスにとって関連が深いと思った個所を紹介してきました。ここで紹介した内容は、孫子の全体からすると一部に過ぎません。ぜひ、手に取って深く読んでみてください。

とは言うものの、いきなり原書を読むのは難しそうだ…と思う方もいるでしょう。

私も、孫子の関連本から読むことで、原書を楽に読めるようになりました。私が参考にしたのは、以下の2冊です。

超訳 孫子の兵法

超訳 孫子の兵法

 
最高の戦略教科書 孫子

最高の戦略教科書 孫子

 

 

とはいえ、原書の迫力はやはり解説本からは得られないものです。

いくつか訳本がありますが、以下の2つをおすすめします。

新訂 孫子 (岩波文庫)

新訂 孫子 (岩波文庫)

 
孫子 戦争の技術 (日経BPクラシックス)

孫子 戦争の技術 (日経BPクラシックス)

 

 

孫子と並ぶ著名な兵法書として、クラウゼヴィッツ戦争論があります。これと孫子の類似性を議論した本として、以下の本があります。西洋と東洋の考え方の違いだけでなく、戦略観点ので本質的な類似性も学ぶことができ、大変面白い本です。

米陸軍で使われるテキストというのも、非常に興味深いところです。 

米陸軍戦略大学校テキスト 孫子とクラウゼヴィッツ (日経ビジネス人文庫)

米陸軍戦略大学校テキスト 孫子とクラウゼヴィッツ (日経ビジネス人文庫)

 

 

 以上、孫子についての話でした。書いてるとまた読みたくなってきました。